現場にデータが集まらない企業は、淘汰される運命にある

知の探究
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大半の企業においては、経営者に情報を集める組織体系となっている。下位のものが上位に情報を伝達し、上位に行くほど情報が集まる仕組みが多いのではないだろうか。

しかしながら、経営者の判断よりも現場の判断の方が、大抵は正しいことが多いことも事実である。

コロナ禍に伴い企業の情報インフラが急激に整った中、データ統制の誤りは急速な競争力低下に繋がる。

経営者と現場、判断はどちらがすべきか

多くのサラリーマンは、経営者が判断すべきと考えていないだろうか。重要な判断ほど、経営者が実施すべきと考えていないだろうか。

これは、半分当たっていて、半分当たっていないと言えるだろう。

これを考える上で、一つ一つ要素を紐解いていきたい。

判断の要素① 時間軸の観点

経営者に情報が集まるのには、時間がかかる

そもそも、経営者の判断と現場の判断は時間軸が異なる。

経営者に情報が伝わるのには時間がかかる。

経営者は、常に正しく重要な情報のみを集めたいという誘惑にかられている。それは、自身の判断が企業のゆく末を決めるからだ。

正しく重要な情報のみを集めるには、ヒトを介すことが良い方法である。

これ仕組み化したものが、レポートラインという考え方であり、最たる例が稟議の仕組みである。

稟議を介して、各部門長の承認を得たものは正しいものだろう、という考え方である。

担当者からあらゆる部門長を介し、経営層に情報が伝わるうちに、1カ月かかっていることもざらにある。

一方で、経営層の言葉も現場に届くのには時間がかかる。

近年では、経営層の言葉をダイレクトに現場に伝える取り組みも多くされているが、これも限界があるだろう。

何故ならば、全ての現場に対して双方向のコミュニケーションをするには、時間もコストもかかりすぎるからだ。双方向コミュニケーションが開催されている間に運良くエスカレーションすべき事象が発生すれば良いが、そんなことはほぼ発生しない。

大企業になればなるほど、この特徴は顕著になり、企業の規模に比例して経営層に情報が伝わる速度も遅くなる。

実は、これは非常に危機的な状況である。

情報を集めるのに時間がかかれば、経営者が経営に影響する重要な判断をして現場に情報を伝えるのにも、時間がかかるのである。

重要な決定ほど即座に対応が求めれるのに対し、重要な決定ほど現場に帰ってくるのに時間がかかるのである。なんと、皮肉なことだろうか。

情報伝達速度を速める施策は有効なのか

では、情報伝達速度を速めるために、レポートラインの間に入る人間を削るとどうなるだろうか。

確かに情報を集める速度も上がるし、情報を現場に落とすのに必要な時間も減るだろう。

しかしながら、前章を振り返っていただきたい。経営者はどの様な情報を求めただろうか。

現場からのダイレクトな情報が伝われば、経営者は情報過多になる上に、余分な情報が入るため、良い判断が出来なくなる。ここでの”良い”の定義は、経営者にとっての情報であることに留意頂きたい。

稀に、全ての情報を知っていないと気が済まない経営者がいる。小さい企業ならばそれも出来るが、大企業で現場からの情報を全て集めるなんて、まさにモンスターである。常人では到底、成しえない。

DWHは、情報伝達速度を速めるツールとして生み出された

そこで着目されたのが、ヒトの解釈が入らない素のデータを見る方法である。

一時期、DWHが流行った時期があった。

この様な時代背景もあったのだろう。

現場からの情報に余分なものが入ってくるなら、データの形式を予め定義しておき、余分なデータを入力出来ない様にすれば、ダイレクトに経営者に必要な情報が伝わってくる、という考え方だ。

DWHにおいては、現場は煩雑なレポートに悩まされなくなるし、ダッシュボード機能で経営者が見たいと思うビューを即座に提供出来、適切な経営判断が出来る、といった提案が流行った。

この提案は見事に、当時の経営者に刺さった。結果、多くの企業では、2010年前後にDWHの導入をした。

しかし、一歩引いて考えてみて頂きたい。本当に必要な情報は数値に現れるだろうか。

競合が強力な商品を市場に投下した、こういう商品が流行りそうだ、といった現場が感じる肌感覚は数値には落ちないし、数値に落ちた頃には機会を逸している。

判断の要素② 情報統制の観点

情報は経営資源そのもの

情報は経営資源そのものである。営業機密が漏れれば、それだけで、企業に大損害を与えることが出来る。

どの企業でも、情報にランクをつけ、情報統制を敷いている。

情報はそのコピーをしやすい性質から、情報へのアクセス可能なヒトは必要最小限に限定しようとする。

これも半分は正しく、半分は正しくない。当然ながら、セキュリティ統制の観点からは上記の施策は正解である。セキュリティの教科書にもその様に載ってます。

部署単位に情報を統制する

上記の考え方から出てきた発想が、部署単位に情報を統制する考え方である。

直接業務に携わらなかったら、見る必要がないよね、という考え方である。

それは、悪意を持った社員が営業機密にアクセスし、外部に漏らすかもしれない、というリスクに対抗することを前提としている。

しかし、本当に悪意を持った人間の時間軸は10数年単位での計画をするものだ。

特定の部署の人間にしか見れない様に統制したとしても、本当に悪意を持ったスパイがいれば、10年スパンでその部署の人間になるだろうし、目的を持って接触してきているものに対して満点の対処をするのはほぼ不可能である。

過度な情報統制がもたらすもの

過度な情報統制は、コラボレーションを阻害する。

現場間で相談したい時に、アクセス権限がなければその個人単位にアクセス権を付与しなければならない。また、他部門にヒトが移った際、業務が違うよね、というのでアクセス権をはく奪すれば、後から聞くことも出来なくなる。

完全に私見ではあるが、真の情報とは、フォルダに入ったパワーポイント資料やエクセル資料ではなく、そのアウトプットに至る思考や考え方、そして、チームに横断的に存在する共通認識であり、文化ではないだろうか。

これらのヒトとヒトのコミュニケーションを介して産まれる動的なネットワークにこそ意味があり、そのネットワークの産物であるアウトプットには意味がないと感じている。

現に、電球を発明したと言われている発明王エジソンは、街灯に電球を活用することで電球を広め、億万長者になったと言われている。電球そのもの自体を発明しただけでは、偉業とは言えず、ヒトとヒトのコミュニケーションの結果産まれた、街灯に電球を採用することで、偉業となったのである。(なお、初期の電球を発明したヒトはエジソンではない)

さて、おわかり頂けたであろうか。

皆さんの企業が思っている営業機密の文書は、漏洩して他社が真似出来る様なものであれば、それは実は、戦略上、重要な文書ではないのである。(会社の統制としての営業機密の管理を無くし、公衆縦覧で参照させるべきと言っているのではないことは補足しておく。)

どちらかと言えば、営業機密の文書を作り出す、ヒトとヒトとのコミュニケーションこそが、競争力の源泉ではないだろうか。

過度な統制は何をもたらすだろうか、考えたい。

部門間で協力したくても、情報が見れないと協力出来ないことが多い。

その障壁がコミュニケーションを削減するし、また、その障壁を乗り越えようとするから個人単位でアクセス権限を割り振ることとなり、アカウント統制が複雑となり、管理しきれなくなるのである。

そして、そのパラダイムも、経営者が『敵を出し抜く』正確な判断をしたい誘惑がゆえの統制だとすれば、本末転倒ではないだろうか。

判断は、現場で実施すべき

そろそろ、前提を疑った方が良いだろう。

これまでのパラダイムは、経営者のみが正しい判断が出来、その為に、経営者に必要な情報を正しく、即座にエスカレーションする、という考え方の基成り立ってきたと考えられる。

この考え方は、日本のサラリーマンに非常に蔓延している、と感じている。

誰しもが、『これは、自分の判断できることではないです。』といった言葉を聞いたことがあるだろう。また、その言葉を素直に受け入れてはいないだろうか。

自分は言ってないつもりでも、周りの人は言ってないだろうか。

この言葉は、実は、上記のパラダイムで動いているヒトのロジックなのである。

でも、一歩引いて冷静に考えてみよう。

経営者よりも現場の方が正しい判断が出来るし、早い判断が出来る。

筆者は、現場にこそ、情報を集める仕組みを提言したい。

今こそ、データを現場に戻す時期が来た

DWHのダッシュボード機能は誰のものだろうか。

実は、経営者の為に作られたものではなく、現場の為に作られたものなのだと思っている。

しかしながら、DWH提供ベンダーの言葉を信じたサラリーマンが、そのパラダイムに染まってしまったのである。

情報を解析する能力も現場の方が高いだろう。

誰かの解釈が入った情報ではなく、素の数字が入った情報を現場に提供するから意味が出てくるのである。

現場で、逐次全体の状況を見ながら、現場で判断をしていく。経営者は、ビジョンは打ち出しても判断はせず、現場の判断を支えるための支援をする役割(具体的には、ヒト・モノ・カネの経営資源の振り分け)に徹するのが良いのではないだろうか。

情報化社会が進む中、現場での判断が、より一層、求められる時代が来る。

一方、現場で判断が出来る人間が少ないことも事実だ。その様な人材を増やすことが、これからの企業の喫緊の課題である。

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