こんにちは、ペン太郎です。
アジャイル開発にスクラムマスターやプロダクトオーナの立場で参画し、大規模アジャイル開発のプロセスを作ってきました。
これは、アジャイル開発以外でも言えることではありますが、プロセスごとに何故この仕組みとしているのか、原理原則を考えることが成功の秘訣です。
前提条件が変わってくると原理原則を忘れがちになりますが、原理原則を見失うと何を目的にやっていたのか、暗中模索となり効率が落ちる様になります。
こうならないために、改めて原理原則について復習していきましょう。
そのアジャイル開発は、環境変化を意識しているか!?
通信の発展が競争原理を変えた
アジャイル開発が広まった背景としては、通信の発展を忘れてはいけないでしょう。
通信の発展が競争原理を変えたとも言えます。
一昔前はあらゆるものがバッチ処理だった
1990年代、音楽は磁器テープで聞かれていました。その後、CD、MD、DVDが発明され、人間が持ち運べる記憶容量は飛躍的に上がることになるのですが、配信の仕組みは物理媒体に頼ったままでした。
当時は、バージョンアップや不具合訂正のためのデータパッチの配信も、物理媒体での配信でした。
当然ながら、物理媒体で配信するためには相応のコストが発生します。不具合がある度に訂正版を出したり、何度も細かいバージョンアップを繰り返すことは許されなかった時代がありました。
一つ一つの配信自体は、配信網さえ整えていれば簡単に出来る世界観でしたが、気軽な不具合修正版の配信やバージョンアップが困難な世界観がそこにはあったわけです。
バッチ処理からオンライン処理の時代に遷移した
一方で、現代では通信網が発展し、スマホを始めとしたポータブルデバイス自体に通信機能がつくようになりました。
また、過度な価格競争に伴い、安価で安定した通信環境が何処でも手に入りつつあります。
バッチ時代には、修正プログラムは物理的な配送が必要でしたが、オンライン時代にはネット環境で配信すれば済んでしまいます。
誰もが通信環境を持つようになったことが、パッチのネット配信が多くなった理由の一つではあるでしょう。
同時に、企業はダイレクトにユーザにアクセス出来る様になりました。結果、配信しながら反応を見て戦略を変えるといったことも可能となりました。
通信網の発展が、戦略の幅を広げたと言えるでしょう。
通信網が発展した現代において、価値はどの時点で100%を目指すべきか
バッチ処理時代には、リリース時点での価値には100%を目指す必要がありました。
不具合修正版の再配信は何度も出来るわけではありませんので、あらゆる異常事態を想定したプロダクトを作る必要がありました。
一方で、オンライン時代には、リリース時点で100%の価値を目指す必要は必ずしもなく、また、ユーザの反応を見ながら戦略を微修正していくことが可能となりました。
ユーザのニーズにマッチしたプロダクトを作るという点では、後者に分がありそうです。
では、オンライン時代の配信戦略は、後者に一方的に分があるのでしょうか。
必ずしも、そうは言い切れません。
バッチ処理(天才軍師) VS オンライン処理(現場将軍)
結論を急ぐ前に、これらの方針の違いについて理解を深めましょう。
これらの方針の違いは、”天才軍師”と”現場将軍”の違いと理解するとわかりやすいです。
天才軍師は、ありとあらゆる自体を想定して対応します。
- 敵は大群だが、隘路を進軍してくる。隊の半分が進んだ段階で山の上から急襲し、敵の隊を半分にしよう。
- 前半の隊が通過する予定の沼地では大型兵器は使い道は無くなるはずだから、沼地対策をした兵士で白兵戦を仕掛けよう。
- そして、後半の隊をせん滅出来る様に予め火計で逃げ道を潰しておこう。
天才軍師は、敵の動きを予め想定して作戦を練るのですね。
一方で、現場将軍は刻一刻と変わる戦況に対してその場の判断をして対応します。
- 敵の強さが不明なので、先兵隊を送って反応を見よう。
- どうも山の上に陣取っている敵は弱い様だ。山の上に戦力を集中させてみよう。
- 川辺にいる敵は、報告と違い実際に戦ってみると予想以上に強い様だ。川辺での戦いは分が悪いので、川辺を避ける様にしよう。
現場将軍は、刻一刻と変わる戦況に併せて、対策していくのです。
どちらの判断も重要ですよね。
天才軍師がいない部隊は、場当たり的な対応となりますし、現場将軍のいない部隊は、少しでも想定外の事態が発生すると総崩れとなります。
この様に、通信網が発展した現代における配信戦略でも、戦略と戦術のバランスが求められます。
なお、現代においては、戦略の重要性は日々増しています。
戦略が重要となっていることの背景と対策については、以下の記事を参考にしてみてください。
通信の発展から導出される3つの原理原則
第一の原則:ユーザの反応を見よう
環境変化によって戦術の幅が広がったが、戦略を見失ってもいけないし、戦術も無視出来ないということを説明してきました。
ここでは、もう一歩踏み込んで、通信網の発展という環境変化をどの様に戦術に適用していくべきか考えてみます。
通信網の発展に伴い、ユーザの反応を気軽に見れる様になったと記載しました。
オンライン型の戦略(リリース時点で100%を目指す)でも、バッチ型の戦略(リリース時点で100%を目指さず、方向性を随時、微調整していく)でも、ユーザの反応は見れるなら見た方が良いでしょう。
通信網の発展に伴い、今までコストのかかっていたユーザ反応の確認にコストがかからなくなったのです。尚更、ユーザの反応を見ない理由はありませんね。
では、ここでのユーザとは誰のことを指しているのでしょうか。
当然、実際にプロダクトを使うヒトがユーザとなります。
では、聞きます。
「あなたの作ったプロダクトを評価しているのは、誰でしょうか。」
あなたがフリーランスなら、ダイレクトに市場の反応を見ていることでしょう。一方で、サラリーマンの場合は、上司や決定権者があなたのプロダクトを評価しているのではないでしょうか。
ここで注意しないといけない点は、評価を下す上司や決定権者は必ずしも、実ユーザではないことがあるということです。
ここに、アジャイル開発に繋がる第一の原理原則があります。
【第一の原理原則】
プロダクトは、定期的に、市場(ユーザ)の反応を見よう。ここでの市場(ユーザ)は、実際に利用するユーザを指すことに注意しよう。
アジャイル開発においては、スプリントレビューという形でプロダクトの評価をしてもらう場を設けます。
このスプリントレビューでは、実際に利用するユーザからのフィードバックを貰うことが重要なのですが、大規模プロジェクトなど前提事項が異なってくると、実際に利用するユーザではなく、上司や決定権者のフィードバックで良し、としてしまうケースが少なからずあります。
プロジェクトの制約などから、実ユーザには直接アプローチ出来ないこともあるでしょう。
そういった時には、原理原則からは外れている、ということを把握した状態で、テーラリングをしていきましょう。
第二の原則:必ずしも、フィードバックは対面である必要はない
第一の原則では、市場(ユーザ)の反応を見ようと提案してきました。
では、次の質問です。
「市場(ユーザ)の反応を見る」には、どうすれば良いのでしょうか。
まず、思いつくのは、実際にプロダクトの使用感を実ユーザにヒアリングしてみることですよね。
では、更なる質問です。
実ユーザにヒアリングすることで、「市場(ユーザ)の反応を見る」ことは満たせるのでしょうか。
目的に照らすと一定の効果はありそうですが、ヒアリングだけでは完璧と言えそうにないです。
何故なら、ユーザは、ヒアリングで本音を語るとは限らないからです。
あなたがさほど興味のない新しいスマホアプリの提案を受けているとしましょう。
例えば、ボタンを押すと現在時刻を音声でお知らせしてくれる機能のみを持つアプリとしましょう。
「ボタンの大きさは問題ないですか?」「このアプリにいくら払おうと思いますか?」と質問を受けたら、どの様に答えるでしょうか。
気分が良ければ正直に「そもそも、ニーズがない」と答えるでしょうが、虫の居所が悪かったり、意地の悪い方なら、「画期的なアプリで、ボタンの大きさも問題ない。500円くらいなら支払おうと思う。」などと答えることもあるでしょう。
この様にヒアリングでは、母数が多くなれば一定の傾向を把握出来ますが、ヒアリング対象者の性格や状態、質問者との関係性などによって回答にブレが発生します。
ヒアリングのサンプル数が1~3では不十分で、最低でも統計的に有意であると言われている20のサンプル数は欲しい所です。
そもそも、通信が発展した現代においては、 ヒアリング以外にも「市場(ユーザ)の反応を見る」方法は存在します。
実際に操作して貰ったログや、アプリの継続利用率などの数値情報を分析すれば良いのです。
ボタンの大きさが気になるのであれば、異なる大きさのボタンをアプリに実装しABテストをすれば良いし、価格が気になるのであれば、実際に有料で販売し反応をみれば良いでしょう。
ユーザの「使いやすい」といった感想よりも、ログから分析したアプリの「継続使用率」の方が、よっぽど正直と言えないでしょうか。
ここに、 アジャイル開発に繋がる第二の原理原則があります。
【第二の原理原則】
レビューでは、対面レビューやヒアリングにのみに頼るのは避け、可能な限り、プロダクトを市場に投入し、ログデータなどの客観的な数値を収集し、分析しよう。
アジャイル開発のスプリントレビューでは、実ユーザへのヒアリングによって反応を見ることが多いでしょう。
何よりも開発中のプロダクトであれば、市場に投入して反応を見るといったことができないこともあります。
客観性を持った分析が必要だし、分析には母数が必要という原理原則を抑えた上で、スプリントレビューを計画していきましょう。
第三の原則:それでも、エモーショナルなアプローチは重要
第一の原則、第二の原則では、通信の発展に伴って多様化した戦術について解説してきました。
通信の発展に伴い、複数人のユーザに対して直接アプローチが出来る様になったことについて説明してきました。
第一の原理原則では、実際にプロダクトを使用するヒトにアプローチすること、第二の原理原則では、対面ではなくログなどの客観性を持った数値でフィードバックを受けることを提言してきました。
究極を突き詰めれば、市場に逐次プロダクトを投入し、KPIが上がっていく施策のみをやっていけば、無限の成長力を得ることが出来そうです。
果たして、その方法で成功を得ることは出来るのでしょうか。
ここで、一つ、フレデリックテイラーの科学的管理手法について、紹介したいと思います。
フレデリックテイラーは、20世紀初めにアメリカで活躍した経営学者で、現代におけるマネジメントの基礎を確立した人物です。
- テイラーは、熟練工と未熟練工の間には、作業の進め方に違いがあることを発見しました。
- 未熟練工が熟練工と同じ様に作業出来る様に、作業のプロセスを細分化し、各プロセスに最適なベストプラクティスを定義しました。
- このベストプラクティスでは、腕の動かし方から工具の置き方まで定め、未熟練工であったとしても、あたかも熟練工と同じレベルの作業効率が出る様にしました。
フレデリックテイラーが活躍した19世紀終わりから20世紀初めは、マネジメントの概念が確立しておらず、個人に対する評価が確立していませんでした。
その為、同じプロダクトを作るのに効率の悪いヒトの方が賃金が高いといった事態が発生していました。(そもそも、作業プロセスが確立していないので、完全に同じプロダクトを作れる、ということは無いのですが・・・。)
作業プロセスを確立し、作業効率が高いヒトの方が高い賃金を貰える様になったのは、科学的管理手法の概念が広まったからなのです。
この科学的管理手法は、完璧な方法ではありませんでした。
何より、労働者の立場になれば工具の置き方や休憩時間、腕の動かし方までをあたかも機械の様に定められるのです。
当然ながら、労働者からの反発は激しかった様です。
現代においても、過度な科学的管理手法を展開している企業は余り見ないですよね。
競争において圧倒的に科学的管理手法が有利ならば、どの企業も当手法を企業運営の中核に取り入れているはずです。
そうなっていないのは、継続性の観点で人間的なアプローチが重要だからですね。
この様に、ヒトの気持ちを無視したロジカルのみのアプローチは継続性に劣るとも言えます。
一方で、エモーションだけのアプローチだけでは、競争に勝てなくなります。
ロジカルとエモーションを適度に混ぜ合わせたアプローチが必要となってきます。
ここに、アジャイル開発に繋がる第三の原理原則があります。
【第三の原理原則】
チームメンバーとは、対話をしよう。対話により協力関係が産まれ、チームとしての生産性向上に繋がる。
アジャイル開発では、デイリースクラムがあります。デイリースクラムでは、何を会話しているのでしょうか 。
作業内容のみを共有すれば良いのでしょうか。作業内容のみの共有となっている場合は、フレデリックテイラーの科学的管理手法を思い出してみてください。
遊びや余白の時間や対話により、自由な発想が育まれたりします。
是非、自由闊達なコミュニケーションが取れる様に工夫してみましょう。
まとめ
通信の発達により、環境が変わりました。
この環境変化に対応する形で、アジャイル開発が生まれてきました。
しかしながら、アジャイル開発という言葉が先行し、環境変化に適さないテーラリングが加えられるていることがあります。
改めて、環境変化から来る原理原則3つについて、紹介しました。
当然ながら、自身の企業にも立場があり、前提条件も異なります。
そうした背景の中で、原理原則を踏まえた良いとこ取りをすることで、より良い開発を実現していきましょう!
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